現在、世界的に地球温暖化への危機が叫ばれ、脱炭素化に向けた日本政府も取り組みが進んできています。2020年には、当時の菅総理が「2050年カーボンニュートラル※、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言し、「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しました。
住宅においても脱炭素社会に向けて、省エネ対策のあり方が提示され、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取組が求められるようになりました。
この中で、特に住宅の省エネ性能の底上げ、つまり断熱性能向上・省エネによるエネルギーコスト削減と太陽光発電システムなどの再生可能エネルギーの活用が必須となってきています。
新しく注文住宅を検討される場合には、脱炭素社会に適合した住宅仕様・設備や住宅性能表示制度などを知識として理解しておきましょう。
※カーボンニュートラル:二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」※ から、植林、森林管理などによる「吸収量」※ を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること。
※人為的なもの
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住宅の性能はどのように評価されるのか?
まず住宅性能は、「住宅性能表示制度」により評価・表示されます。
住宅性能表示制度は、国土交通省により施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法、2000年施行・運用開始)に基づいて作られました。
国土交通大臣によって登録された第三者機関によって客観的に住宅性能を評価し、表示するための基準や手続きが定められています。
性能表示事項は以下の引用の通り、10分野(34事項)から成り立っています。
- ① 構造の安定に関すること
- ② 火災時の安全に関すること
- ③ 劣化の軽減に関すること
- ④ 維持管理・更新への配慮に関すること
- ⑤ 温熱環境に関すること
- ⑥ 空気環境に関すること
- ⑦ 光・視環境に関すること
- ⑧ 音環境に関すること
- ⑨ 高齢者等への配慮に関すること
- ⑩ 防犯に関すること
引用元:国土交通省住宅局住宅生産課監修「新築住宅の住宅性能表示制度ガイド」
この住宅性能表示制度は品確法の3本柱の一つであり、他には「瑕疵担保責任」、「紛争処理体制」があります。
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住宅性能表示制度により建築主のニーズにあった家づくりが可能に
住宅性能表示制度により、住宅性能が客観的にわかりやすくなったことで、建築される方の予算や要望に合わせて、性能を高めたり、不要と思う性能を削ったりといったことが可能になっています。
地震保険、住宅ローンにおいて優遇される
住宅性能表示の必須項目には耐震等級が含まれています。これは日本が地震国であるため、安全性の高い住宅が求められていることに起因しています。なお取得した耐震等級によって、地震保険の割引を受けることが可能です。
耐震等級3では割引率が50%、等級2で30%、等級1(建築基準法レベル)で10%です。(2014年7月1日以降契約)
住宅ローンに関しては、住宅性能表示制度を利用した新築住宅は住宅金融支援機構提携のフラット35での検査を一部省略できる優遇が受けられます。(一定の条件を満たす必要があります)
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住宅性能表示制度のデメリット
住宅の性能がわかりやすくなる住宅性能表示制度ですが、デメリットとなる側面もあります。
性能等級をあげると建築コストがあがる等級は高いほうが良いに越したことはない、と思われがちです。しかし、耐震や耐火、劣化の軽減など、すべての性能を高めようとするとその分資材や施工の手間がかかり、費用も膨らんできます。せっかく性能の高い住宅を手に入れても、住宅ローンの返済に追われてしまうような生活は望ましくありません。予算やご家族の要望をバランスよく考えて家づくりを進めていきましょう。
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性能項目におけるユーザーニーズが高い項目
住宅性能において、特に気にしておくべき項目は下記が挙げられます。
(ア)耐震等級
構造の安定により、地震災害が発生した際に安全性が高い住宅が求められています。
建物の耐震性能によってランクは3段階に分かれており、その数字が大きいほど、建物の耐震性能が高くなります。
耐震等級とは地震で建物が崩壊しないよう、地震に対する構造躯体の倒壊・崩壊等のしにくさを表示したものです。
耐震等級における3つの区分の基準は?
「耐震等級1」は、建築基準法で定められた、建物に備わっているべき最低限の耐震性能を満たしていることを示すもので、震度6強から7に相当する、数百年に一度起こる大地震に耐えうる強度を持つように構造計算されています。
耐震等級2は、上で示した耐震等級1の1.25倍の倍率の耐震強度があることを示しています。「長期優良住宅※」として認定されるには、耐震等級2以上の強度を持たなくてはなりません。ちなみに、災害時の避難場所として指定される学校や病院・警察などの公共施設は、必ず耐震等級2以上の強度を持つことが定められています。
※長期優良住宅:長く住み続けられるために定められた基準を満たす性能の高い住宅。9項目の認定基準をクリアした住宅が長期優良住宅として認定されます。
耐震等級3は、耐震等級1の1.5倍の耐震強度があることを示しています。住宅性能表示制度で定められた耐震性の中でも最も高いレベルであり、災害時の救護活動・災害復興の拠点となる消防署・警察署などは、その多くが耐震等級3で建設されています。
熊本地震の際にも耐震性能3の住宅は被害が少なかったという調査報告がありました。住宅においても、「地震に強い家づくり」は必須となることでしょう。
(イ)断熱性能等級
脱炭素社会への適応に対して、省エネ性能の確保・向上による省エネルギーの徹底が住宅に求められています。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2025年には、住宅も含む省エネ基準の適合義務化も予定されています。
断熱性能を高めるメリット
断熱性が高いことで得られる主なメリットは、冷暖房などにかかる光熱費が節約できることが一番となるでしょう。
断熱性の高い住宅にすることで、夏のシーズンは外部の熱が室内に伝わりにくいため、効率よく室内を冷やすことができます。また冷やした空気が外に逃げづらくなることで室内が涼しくなり、長く同じ環境が保つことができます。
冬のシーズンは、冷気が入りにくく暖気が逃げにくくなり、暖かい室内環境を維持できます。
また室内温度が一定になるということは、冷暖房の使用も最小限で済むことに繋がり、光熱費が削減されるのです。
高い断熱性を持つ断熱材や高性能樹脂サッシ、熱交換換気システムを使うことで、建築時の初期費用はその分上昇しますが、結果的に光熱費は下がるため、長い目で見ると大きなコストダウンにつながります。
これが地球環境にも優しい「快適でエコな家づくり」なのです。
(ウ)劣化対策等級・維持管理対策等級
住宅は一度建築したら、長期間に渡って快適に住まうことが求められます。そのために必要なものが、「劣化対策」と「維持管理」です。
住宅をご家族の資産として考えると、その価値を落とさないためにも最適な劣化・維持管理対策が施されている必要があります。
劣化対策とは、建物の構造躯体の部分に用いられる木材のシロアリ対策や鉄筋の錆び対策などが該当します。
特に木造住宅の場合は、外部からの水気・湿気を入れにくい構造になっていることで、木部の腐食やシロアリの被害を受けにくくなります。
維持管理対策とは、建物の配管清掃や補修のしやすさが該当します。
具体的には、給排水管やガス管の日々の維持管理をしやすくするための対策、排水管の更新工事を軽減するための設備・工法を採用しておかなくてはなりません。
こういった対策を行っていくことで、「長く住まうための家づくり」を実現するのです。
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住宅性能評価書とは?
住宅の設計や施工について、客観的な基準で評価する住宅性能評価であり、その結果が記されたものが「住宅性能評価書」となっています。
住宅を建築・購入する際、「住宅性能評価書」を取得することは義務ではありませんが、主に下記のようなメリットがあります。
注文住宅を建てる場合には、耐震性能や耐火性能、省エネ性能などが希望するレベルになるよう設計されているか、施工されているかを第三者機関である専門家にチェックしてもらえます。
分譲住宅を購入する場合、客観的な数値で性能が表示されているため、自分たちの希望に合う住宅を選ぶことができます。
中古住宅を買う場合には、住宅の劣化や不具合の状況を購入前に把握することができます。
将来的に、住まわれている(保有されている)住宅を売却される場合にも、「住宅性能評価書」があることにより、安全に設計・施工され、維持管理された住宅であるという証明になるため、資産としての住宅価値を上げていくことが可能となるのです。
建築・購入時だけでなく、将来的な安心のためにも「住宅性能評価書」を取得していきましょう。
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まとめ
これからの家づくりには、「脱炭素社会」への適合が求められています。特に省エネ性能のアップは一次エネルギ―消費量の削減を可能とし、地球にやさしい取組になると共に光熱費の節約につながることでしょう。
また地震国である日本ではいつ大きな地震災害が来てもおかしくはなく、ご家族が安心して暮らせるための耐震性能は必須となります。
家づくりを進めていく際には、その基準となる「住宅性能評価」を理解しておき、予算や要望のバランスを取りながら、ご家族のマイホームという夢を実現していきましょう。