25年にわたり省エネ住宅、エコハウスを研究されている東京大学大学院工学系研究科准教授 前真之先生に、健康で快適な暮らしとは何か?お伺いしました。
1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2008年から現職に就いている。
東京大学に入学してから25年にわたり、空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求め研究している。
2012年、2015年に出版された著書「エコハウスのウソ」が反響を呼び、2020年8月に待望の第2弾「エコハウスのウソ2」を出版した。
※2020年10月現在
「暖かく涼しい健康・快適な暮らしをいつまでも最小のエネルギーですべての人に」。これが前先生が掲げるエコハウスのテーマだ。そしてその実現のためにまず必要となるのが熱や空気の移動を減らす「断熱・気密」だ。
ところが、⽇本の住宅は低断熱・低気密と⾔われている。実際に前先生の研究室が実施したアンケートにおいても「床が冷たい」「窓周りから冷気が伝わる」「住宅内で部屋間の温度差が大きい」といった、断熱性能が低いことに起因する不満が多くあがっている。
「断熱・気密」を高めるうえで、前先生が特に重要と考えるポイントは「窓と床」だ。まず窓について。
「古い家などで⽊製サッシを利⽤している場合、断熱性能や気密性能はほぼゼロです。隙間から外の冷たく重い空気がどんどん侵入してきてしまいます」。
そして床についても。
「⽇本の家はたいてい床下空間を持っています。床下は外気がそのまま通り抜けるようになっていますから、
その上に隙間だらけの板を乗せただけでは冷たく湿った外気が屋内に侵入してきます。その上で暮らしていれば、足もとが寒いのは当たり前です」。
さらに気密性の低い住宅では、エアコンの暖気が床まで届かないという問題も発生するとのこと。
「断熱・気密が足りないと、いくらリビングを暖房しても、その熱が家中に回りません。家の中で暖かいところ、寒いところがあると、血圧の急激な変化を起こす『ヒートショック』の原因となり、健康上も良くありません」。
では、どうしたら断熱・気密性能を高めることができるのだろうか。前先生は「高断熱の家が欲しいと思ったら、まずは窓をしっかりしたものに」と訴える。 「幸いにして窓の断熱・気密性能は急激に向上しています。実際に赤外線カメラを⽤いて断熱性の低い窓および断熱性の高い窓を比較すると、外気温が低いにも関わらず、断熱性が高い窓ほど熱が逃げず、室内の温度が高くなっていることが分かります」。
まずは窓の断熱・気密をしっかり強化したうえで、2番目の弱点である床の強化を図ってゆくのが良いということだ。ちなみにユニバーサルホームの家では、断熱性能の高いLow-E複層ガラス樹脂サッシを標準仕様としており、窓の強化を図っている。
続いては床の強化。一般的に、床の断熱強化にはふたつの方法がある。
ひとつは床に断熱材を詰める「床断熱」。そしてふたつめが基礎の⽴ち上がりの部分に断熱材を入れ、ある意味で床下空間を室内に取り込んで基礎から逃げる熱を減らす「基礎断熱」だ。
ただ相変わらず、床下空間が残ったまま、かつ床表面を積極的に暖めることがない限り、床表面の寒さは残ってしまう。だから床下空間がない工法と、床表面を暖めることのできる床暖房をすみずみまで敷設する工法を組み合わせれば、足元も部屋全体も暖かい状況をつくり出せると思います」と語る前先生。そうした点では、床下空間がないため寒さが伝わってくることもなく、さらにリビング、キッチン、洗面脱衣所を含む1階全面の隅から隅まで床暖房を敷設するユニバーサルホームの床はまさに「断熱強化された床」と⾔えそうだ。(玄関土間および浴室は含まれません。)
「これからは家のどこか一部分が暖かいだけではダメ。快適さだけではなく健康のためにも、家のすみずみまで暖かいことが必要な時代になってきています」と前先生。
今回の解説を参考に、「ヒートショックを防⽌できる洗面所・バスルーム」「料理をするのが楽しくなるキッチン」「快適に休養を取り、英気を養うことができる家」などについてお考えになってみてはいかがだろうか。
前先生が考えるエコハウスについてもっと詳しく知りたい方はこちらからノーカット映像もご覧いただけます。
2019年冬および2020年夏、東京大学大学院工学系研究科准教授 前真之先生のご協⼒を得て、ユニバーサルホームの家の温熱環境を測定しました。その結果をご紹介します。
ユニバーサルホームの基礎には「地熱床システム」が標準装備されておりLDK・和室・廊下・洗面所・トイレを含む「1階全面床暖房」を実現している。(玄関土間および浴室は含まれません。)
まずはリビングの温熱環境から。ユニバーサルホームでは窓に樹脂サッシ、壁に現場吹き付けの発泡ウレタンフォーム断熱材を採用し、気密性を高めている。それによりリビングの床は約26℃、室温は約24℃に保たれており、壁⾯の温度も均⼀になっている。
前先生にリビングについてお聞きすると、「リビングは家族みんなが集って⻑時間にわたり心地よく過ごせる空間であってほしいですね。そのために窓や壁をしっかり断熱し、余計な空気の移動を減らす。また暖房器具についても、空気が顔にあたったり⾳がうるさいものは嫌ですから、床全面を使って室内の表面温度を穏やかに整えることができるのは良いでしょう」とのこと。
続いてキッチンへ。ユニバーサルホームの家では楽しく料理が作れるよう、キッチンにも床暖房を敷設している。近年は対面キッチンの採⽤が多くなっており、リビングのエアコンの暖気をそのまま利⽤できそうだが、前先生は次のように異議をとなえる。
「キッチンカウンターは結構大きいので、なかなか足もとまで暖気が届きません。また、勝⼿⼝などから外の冷たい空気が入ってくる場合もあります。リビングダイニングとキッチンが同じ暖かさで、家事をする人にとって快適な『夢のキッチン』となるよう、しっかりとした設計をしてほしいと思います」。キッチンにも床暖房、が理想のようだ。
最後に洗面所・バスルームについて。前先生の研究室が⾏ったアンケートでは既に9割以上の⽅が「ヒートショック」という⾔葉を知っている※との結果が得られたが、その解決は非常に困難だ。
「ヒートショックは家の中の温度差が血圧の急変化をもたらすことによる疾患。廊下や⽔回りを含む家中の温度のバリアフリー化が重要です」とのこと。その点で、ユニバーサルホームの「1階全⾯床暖房」は解決策のひとつとなりそうだ。
※前先生の調査結果による。「よく知っている」「かなり知っている」と答えた数字を合わせた回答
実際に、冬の温度状況をグラフで⾒てみよう。早朝にかけて外気温が0℃近くまで下がっているにも関わらず、ユニバーサルホームの家では床暖房24時間運転の場合は26℃程度まで上昇している。またタイマーによる間欠運転でも生活時間帯は24℃程度を保っている。国の指標として健康室温は冬期で18℃以上という数値があり、24℃は高すぎるようにも思えるが、前先生の⾒解は異なる。
「誤解されやすいところですが、18℃はヒートショックの防⽌など健康を確保するうえでの最低基準です。世界的な温熱環境指標にPMV(Predicted Mean Vote、予想平均温冷感申告)がありますが、実はこの指標で⾔うと冬期の最適温度は24℃です」。
実際に、前先生は昨冬24℃の暖房を続け、非常に快適と感じたそうだ。「住み⼿の方が『あ、いいな』と思う温度であればいいのではないでしょうか」。ガマンする必要はまったくない、というのが前先生のご意⾒だ。
続いて、床暖房をオフにした後の3月下旬から5月上旬までの温度状況をグラフで⾒てみよう。
まだまだ肌寒い3月下旬から外気温が徐々に高くなってゆく5月上旬まで、床の温度がだいたい23℃で安定している様子が読み取れる。
冬期に寒さから身を守るため土の中で過ごす動物がいたり、雪がたくさん降る地域では野菜を凍らせることなく保存するために地面を掘って埋めたりもする。これらは外気温に比べ、地中の温度が年間を通じて安定していることを活⽤したものだ。そして当然、この原理を取り入れた「地熱床システム」にも、建物内に「天然の冷暖房」をもたらす効果があるのだ。
「冬は床暖房によって床から室内に熱が流れ、夏は外気温より低い土壌の温度を使って快適に過ごせるよう工夫されています。温度と熱の流れ、その双方を詳細に計測することにより、今後、地熱床システムのさらなる改良につながるのではないかと期待しています」。
夏はどうだろうか。床下が存在しないユニバーサルホームの工法は、ゲリラ豪雨による床下浸⽔が一切発生しないなどの利点もあるが、一方で酷暑のなかで⽇射熱が基礎部分に蓄積しないよう注意を払う必要がある。
実際にモデルハウスで夏期の涼しさを体験された後、前先生に感想をお聞きした。
「足もとが⼟壌の冷熱によって少し涼しくなっているのかな、ということは実感できました。夏を涼しく過ごすために一番大事なことは、やはり窓からの強烈な日射熱を防ぐことです。軒やひさしを工夫するなど、とにかく⽇射遮蔽をきちんとやっておけば冷房を入れ続けたとしても電気代はそれほど高くはなりません。夏期についてはそれほど心配しなくても大丈夫でしょう」。
「家づくりは住む人が健康で楽しく暮らせることが非常に大事」と語る前先生。暑さ寒さをガマンせず、快適と感じる温度に設定することは決してわがままではない、と訴える。ただ、その場合、電気代が心配になる方もいらっしゃるだろう。そうした方々に向けて、最後に前先生からのメッセージがある。
「建物をしっかりと断熱・気密をし、ヒートポンプを利用した高効率空調設備を導⼊し、可能であれば太陽光発電も導⼊する。ここまですれば、あとはお望みの生活をしても何の心配もない、ということをぜひ知っていただきたいですね」